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目には見えない何か

目には見えない何か
中後期短編集1952-1982
パトリシア・ハイスミス著
2005 河出書房新社


中期の短編集にある、
様々なバリエーションの物語を読んでいる内に、
彼女が単なるサスペンス作家でない事がよく分かってきました。

読んでいて落ち着かない気持ちにさせられるのは、
自分の心の中にもある何かが照応しているわけですが、
読んでいる自分は作中人物と同じ様になってもおかしくないのに、
ならないのは何故だろう?
そんなところから、彼女の書こうとしているものが見えてきました。

それは、なにものにもとらわれない人間の心の危うさだと思う。
自分が犯罪を犯したり、一戦を越えないで居られるのは、
様々なしがらみや、多様な価値観の中でのバランス感覚があるからではないか?
人付き合いのしがらみが薄れてきたり、
一つもしくは数少ない価値観に寄りかかってしまいがちな、
現代人の心理を見据えて書いているようです。

登場人物は、皆、裕福だし、
家族はいないか、少ない。居ても、その結びつきは弱い。
そして、地域にも、特定の団体にも属していない場合が多い。
また、心の拠りどころが、少ない。
そういう人物が主人公になっている。
これは、現代人の特徴といわれているものでもあります。
彼女は、早くからその特徴をすくい上げ、取りまとめたといえるのではないでしょうか?
そういう特徴を備えた人が、どんどん増え、大多数になった現在、とも思えます。
怖い世の中です。

犯罪(者)への関心、現代人の心理への関心が、融合し、
それに的を絞り、ぶれなく書く筆致が冴えて、出来上がった作家でしょう。

翻って言えば、初期の作品について、
的を絞らず、いろいろな試みを現している、
という解題に頷ける事がようよう出来ました。
犯罪にとらわれない作品がより多く、(笑)
心理への関心のありようが覗え易いです。

なにものにも、とらわれないというのは、
言い換えれば自由、
更に言えば、不安定でもある。
ニュートラルな視点を堅持し続けて書くので、
話の先が見えず、
作者の上手さは見えても、作者が見てこないのでしょう。
でも、短編集を一通り読み、解題を読み直してみると、
彼女の人生観・人間観が込められているのが透けて見え出し、
驚きました!

この短編集の最後から二つ目の作品では、
犯罪も、事件も起きていません。
リプリ―の作者というところから、より自由な作者の素顔が見えるようです。
こういう作品を読むと、この短編集の目論見が見え出してきます。
人間の心の危うさばかりでなく、偏狭さもしっかり睨んでいる。

一通り読んで、ようやく、彼女の作品を読む準備ができる。
大人の文学なんだ、そう呟いてしまう。
彼女の日記などの研究が進めば、もっといろいろな事が見えてくること、
必定です。
彼女の文学研究は、大変そう…。

先の短編集よりは、先が読めにくく、上手くなっていると断じられます(笑)
つまるところ、またしても、巧さに、呆然とするだけでした(^^ゞ
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by kimipoem | 2005-04-09 10:07 | 聴覚障害